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超々ジュラルミンとは?

図1  超々ジュラルミンの発明者,五十嵐 勇博士(昭和44〜45年住友軽金属の顧問を退任した頃)
図1  超々ジュラルミンの発明者,五十嵐 勇博士(昭和44〜45年住友軽金属の顧問を退任した頃)

超々ジュラルミンとは戦前,日本で発明された航空機用アルミニウム合金で当時世界で最も強度の高い合金です。当時世界の最強合金は米国アルコア社が発明した超ジュラルミン (Super Duralumin) 24Sであり,その強度480MPaに対して超々ジュラルミンは600MPaでした。英語ではExtra Super Duralumin,略称ESDと名付けられました。この合金の強度が高いことに注目した三菱の堀越二郎氏はその当時設計していた十二試艦上戦闘機(のちの零式艦上戦闘機)の主翼に桁に用いることで機体を30kg軽量化することに成功し,世界最速の戦闘機,零戦を作り上げました。超々ジュラルミンは航空機の軽量化に大きく貢献しました。この超々ジュラルミンを発明・開発したのが住友の五十嵐勇博士です。

ドイツがジュラルミンをツェッペリン飛行船に使用し始めると,各国の海軍はジュラルミンと同等な合金を材料メーカに製造させて飛行船を作り始めました。ジュラルミンの強度だけでは満足せず,さらに高強度の合金の開発を命じ,世界各国でジュラルミンより強度の高い超ジュラルミンの開発が進みました。米国アルコア社は1928年ジュラルミンにケイ素を添加した超ジュラルミン14Sを開発しました。このケイ素を添加した合金の開発の流れは日本も含めて世界ほぼ共通でした。この合金は焼入れ後,時効処理といって,170~190℃で熱処理をしなければ480MPaの強度が得られない合金でした。その後1931年アルコア社はジュラルミンのマグネシウム量を1%増やした超ジュラルミン24S合金を開発しました。この合金は焼入れし室温で保持したままで480MPaの強度が得られ,伸びも高くて加工しやすいために24Sが超ジュラルミンとして航空機に採用されることになりました。

 

日本の住友でも超ジュラルミンの開発が進んでいましたが,基本はケイ素を添加したジュラルミンでした。しかし,海軍は米国の24Sの情報を聞きつけて,1935年急遽住友に24Sの製造を命じ,九六式艦上戦闘機に採用されることとなりました。しかし,同時に海軍は24Sより高強度で600MPaの強度を有する合金の開発を住友に命じました。住友では開発担当に五十嵐博士に白羽の矢が立ちました。五十嵐博士は1935年8月開発宣言し,翌年1936年にほぼ合金開発に目処をつけ,6月に特許を出願するという非常に短期間で超々ジュラルミンを開発しました。短期間でできたのはそれまでに培ってきたアルミニウム合金に対する幅広い経験と知識に基づき,実験の名手,北原五郎氏との系統的な実験,製造現場の協力体制がありました。

 

図2 Al–Zn–Mg 系合金の時期割れに及ぼすクロム添加 の影響
図2 Al–Zn–Mg 系合金の時期割れに及ぼすクロム添加 の影響

当時,高強度が得られる合金としては英国のRosenhainのE合金(Al-20%Zn-2.5%Cu-0.5%Mg-0.5%Mn),ドイツのSanderのS合金(Al-8%Zn-1.5%Mg-0.2%Si),アルコア社の超ジュラルミンSD合金(Al-4.5%Cu-1.5%Mg-0.5%Mn)などが知られていました。これらの合金の中には600MPa程度の強度が得られる合金もありましたが,ほとんどが「応力腐食割れ(時期割れ)」という問題があり使用に耐えられませんでした。応力腐食割れというのは,材料に引張り応力が負荷された状態で腐食環境下に置かれると材料の強度以下の小さな応力で破壊が生じる現象です。多くの高強度の金属材料ではこの問題に直面します。

 

五十嵐博士は600MPa級の高強度アルミニウム合金を開発するにあたり,合金としては上記の合金の組み合わせの中に答えはあるだろうと考え,加工性と応力腐食割れ対策に注力しました。いくら高強度でも圧延や押出,鍛造が困難であれば製造できません。E合金,S合金,SD合金の配合比率を変え,焼入れ時効後の強度と一番軟化させた強度の差が大きい合金で強度が600MPa得られる合金をまず選定しました。問題の応力腐食割れは結晶粒界で生じるために局部腐食が問題で全面腐食するような合金元素を選択し,最も割れる腐食環境条件を探し出してそこで最も割れない添加元素を探しました。その結果,クロム元素に行き着きました。実験結果を図2に示します。クロム元素の関してはすでに24Sに添加したり,そのクラッド材でも皮材にクロムを添加して腐食に対して有効であることをすでに把握していたことも関係していました。こうしてAl-8%Zn-1.5%Mg-2%Cu-0.5%Mn-0.25%Crの成分を有する超々ジュラルミンが完成しました。元になったE合金,S合金,SD合金のDをとって英語名ESD,Extra Super Duraluminと命名されました。