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ボーキサイト鉱床

ボーキサイトについては採掘現場を見たことがないので,そもそもどのような状態で産出されているのか知りません。今手元にあるのはO氏から頂いた写真に示すような半径数ミリから10ミリメートル程度の粒状のボーキサイトです。ハンマーで叩くと簡単に割れ,粒の外表面はリンゴの皮のように一皮被っていた様子が観察されました。ネットでボーキサイトを検索すると,いろんな形状があるようです。しかし,なぜ丸いのであろうか,なぜ一皮被っているのだろうか,いろいろな疑問が湧いてきました。

8ミリ径ほどの丸いボーキサイト粒をハンマーで割ると写真のようになっていました。中心から半径方向に半径の約半分までは白色半透明で1ミリ以下の細かい粒子の鉱物が数多く観察されます。それを取り囲んで赤褐色の粘土質の層が層状に重なって丸くなっています。さらに最表面に肌色の薄皮一枚覆った層があります。薄皮は触ると粉が付着してきます。この薄皮は何かの化学反応で変質したものと思われますが,内部と色が違うのはなぜだろうか?鉄分が異なるのであろうか?薄皮は単純に変質しただけなのか,それとも粒同士がくっつかないための「餅取り粉(片栗粉)」のような機能でもあるのであろうか?

 

丸くなるというのは川の中の小石を連想させます。飯山敏道「地球鉱物資源入門」(東京大学出版会,1998)を読んでいましたら,残留鉱床の項で,「鉱物の一部が水に溶解することである。このとき,どの鉱物がどのように溶けるかは,水の組成,pHなどによって非常に異なる。一般に言えることは鉱物を構成している各成分が同じように溶出されず,ある成分は多く溶出され,他の成分はほとんど溶出されないということである。たとえば曹長石(NaAlSi3O8)は常温ないし200℃くらいの水に接すると,SiO2がもっとも多く水に溶出し,Na分がこれに次ぎ,Al2O3分はほとんど水に溶出しない。固相に残ったAl2O3分はAl2O3として残ることは稀で多くの場合,溶け出すSiO2, Na2O分の一部と結合してモンモリトナイト(たとえばNa0.33Al2.33Si3.67O10(OH)2)のような粘土鉱物を形成する。ときにはAl2O3分とSiO2分が結合して,カオリナイト(Al2Si2O5(OH)4)を形成することもある」,「水は流れたり,岩石中の空隙を伝って移動し,新しい水が岩石と接して未反応の長石類と反応していく」,「流出する物質や生成する鉱物の量は数日〜数年程度についてみると極めて少ない。しかし,数百年,数万〜数十万年の長期にわたると非常に多い量となる」。以上のようにボーキサイトの鉱床が出来るときには水の流れが関与していることがわかります。岩石中での水の流れとボーキサイトの形状は関係するものと考えられます。

 

さらに近くの図書館で借りてきた大著,鞠子 正「鉱床地質学 ー金属資源の地球科学ー」(古今書院,2008)をみると,ボーキサイト鉱床に関して,7ページも割いて説明している。要約すると以下の通りです。

 

(1)「ボーキサイト鉱床は一般に母岩と成因によりカルスト型(テラロッサ型)ボーキサイト鉱床とラテライト型ボーキサイト鉱床に分類される。カルスト型鉱床は炭酸塩の分解とそれに伴うAl珪酸塩の風化に由来する残留アルミニウムの濃集によって形成されたアルミニウム酸化物鉱床であり,鉱床の組成およびカルスト化の様式によってさらに幾つかの型に分類されている。その主要分布地域は地中海北岸,ジャマイカ,米国である。

 

(2)ラテライト型鉱床はAl珪酸塩岩から亜熱帯ないし熱帯気候の条件下でラテライト風化作用によって形成され,世界のボーキサイトの約90%を占める」「ラテライト型ボーキサイト鉱床は,粘土に富む砂岩,片麻岩,花崗岩,粗粒玄武岩,斑糲岩などの種々のアルミニウムを含む堆積岩,変成岩,火成岩の上に発達する。風化断面では,未風化母岩の上にカオリナイト,鉄ー水酸化物,残留鉱物(白雲母,石英,磁鉄鉱,ジルコンなど)のサプロライト帯,その帯の頂部ではカオリナイトは分解しギブサイトに置換され,ボーキサイト層に移り変わる。その上にボーキサイト質,鉄質あるいは粘土質など種々の型の表層が発達する。カオリナイトは水によって溶脱されギブサイトに変化する。Al2Si2O5(OH)4(カオリナイト) + H2O = Al2O3・3H2O (ギブサイト)+ 2SiO2(シリカ)

ラテライト型鉱床の主要分布域は次の5地域である。(1)北および南西オーストラリア地域,(2)西アフリカ地域:主としてギニア,(3)南アメリカ:ギアナ楯状地,ブラジル楯状地,(4)インド地域,(5)東南アジア地域。

 

(3)ボーキサイト鉱床では母岩のアルミニウム含有量はボーキサイト化の重要な要素ではなく,アルミニウム富化の過程は大部分初期のAl/Si比と風化作用の速度に支配される。また低Fe量も重要な要素である。ボーキサイト鉱床の相当な部分は堆積岩から生成され,特に高品質の鉱石はアルコーズ砂岩から生成される。(注,アルコーズ砂岩:堆積した粒子の鉱物種が花崗岩と同じような,角張った長石類と石英ばかりからなるものをアルコーズという。粒子は1~2mm程度が多く,砂岩に属 するものが多く,アルコーズ砂岩と呼ばれることも多い。堆積場所の背後(後背地)に花崗岩地域が広がり,そこからあまり離れていない場所で堆積したこと を示すもの)

 

(4)ボーキサイト鉱床はラテライト地帯内で傾斜面上部および峰のような最も排水のよい場所に産する。ボーキサイト化作用の最適条件は,現在の熱帯湿潤気候に相当する平均気温22 ℃以上,雨期9~11ヶ月以上,年間降雨量1200mm以上とされている。