純アルミニウムというと皆さんは,どのようなアルミニウムを考えますか?大学の先生に聞くと,pure aluminumだから文字通り不純物のないアルミニウムだとの回答がかえって来ます。製造上日常的にアルミニウムに接している人にとっては,不純物の多いアルミニウムも純アルミニウムの仲間に入ってしまいます。我々の使用するJIS規格(表参照)では純アルミニウムは1000系として分類されています。1000系の中でさらに不純物量で1050,1100等分類されます。大学の先生方との違いはどこから来るのでしょうか?
我々,工業的に純アルミニウムを扱っている技術者にとって,純アルミニウムは不純物を含むものとして認識しています。特にアルミニウムは不純物として地金の製錬過程で混入してくる鉄やケイ素の量で純アルミニウムの特性は大きく変わってきます。すなわち地金の純度で特性が変わります。規格では99.00%以上の純度のものを純アルミニウムと言っています。これらは溶融塩電解法で製造されます。これに対し,99.90%Al以上のアルミニウムを高純度アルミニウム (high-purity Aluminum)と呼びます(軽金属学会編,アルミニウムの組織と性質,P.159)。工業的には99.95〜99.999%Alは溶融塩電解で製造されたものを,さらに三層電解精製法および偏析法(分別結晶法)などで精製して生産しています。これらの方法で得られている純度以上の超高純度が必要な場合は帯溶融精製法 (Zone melting) が用いられます。
以前,ある研究会で研究発表を聴講していたら,大学の先生が実験結果で不純物のことを全くふれていないので,そのアルミニウム材料の不純物濃度はいくらですかと問い合わせたところ,99.99% (4N) のアルミニウムを使用しているので問題ありませんとの回答でした。自分の実験で4Nでも3Nに近い4Nか5Nに近い4Nかで再結晶挙動が異なることを知っていましたので,4Nだからと言って不純物の影響がなどとは言えませんと述べました。多くの大学の先生の不純物の知識は多分このレベルだろうと思います。5Nのアルミニウムは加工によっても転位が残らず室温で再結晶が生じます。転位が残るということは不純物があるということの証拠にもなります。転位論を研究している方はなぜ転位が残って見えるかということを意識して研究してほしいものだと思います。
さて,本題に戻りますが,純アルミニウムという名称は時代とともに,すなわち製錬・精製技術の発展とともにその中身が変わってきています。現場にいる技術者は地金をそのまま使用して混ぜ物をしないという意味で純アルミニウムという言葉を使ってきたと思います。ところが大学の先生はこの歴史的な経緯を知らないのか,実験でも不純物量に関してはあまり意識していない場合が多い。現実にはpureなどということはあり得ません。しかし,学術論文(軽金属学会)となるとpure aluminum では理想的なアルミニウムを意識する人もいるから,最近は純アルミニウムという用語を使用せず,工業用純アルミニウム (commercially pure aluminum) を使用します。この場合の純度は99.00%以上で99.90%以下です。99.90%以上を高純度アルミニウムとしています。(軽金属学会「軽金属」執筆要項参照)
なおAluminum -Properties and physical Metallurgy- edited by J.E. Hatch ASM (1984), 1.によると英語表記は以下の通りです。
99.50-99.79%: Commercial purity
99.80-99.949%: High purity
99.950-99.9959%: Super purity
99.9960-99.9990%: Extreme purity
Over 99.9990%: Ultra purity
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chobo (日曜日, 24 9月 2017 16:41)
こんにちは。
興味深いお話、いつも楽しみに拝読しております。
私は金属学を専門的に勉強したことがないので
初歩的な質問ですが
「転位」とはどういう状態をいうのでしょうか?
吉田英雄 (日曜日, 24 9月 2017 17:02)
choboさん
コメントありがとうございます。
専門用語が多くなってしまい,理解しづらいところもあるかと思います。
「転位」については次のブログで取り上げたいと考えます。
今後ともよろしくお願いします。