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転位とは?

図1 加工された純アルミニウム中の転位 (a) 焼きなまし後,(b) 2%圧延後,(c) 7%圧延後,(d) 30%圧延後 (Aluminum,  Properties and Physical Metallurgy, ed. J.E. Hatch, ASM, 1984, 108)
図1 加工された純アルミニウム中の転位 (a) 焼きなまし後,(b) 2%圧延後,(c) 7%圧延後,(d) 30%圧延後 (Aluminum, Properties and Physical Metallurgy, ed. J.E. Hatch, ASM, 1984, 108)

転位という専門用語がでてきて,これは何ですかと質問がありました。金属の特徴の一つは塑性変形ができるということです。塑性変形とは圧延や押出,鍛造あるいはプレス加工など圧力を加えて任意の形状に加工できることです。これは金属にしかない特性です。なぜ破断応力よりも低い応力で変形ができるのかは金属学の大きな問題でしたが,1934年,結晶の中に線状の格子欠陥(転位)が存在し,この欠陥は低応力で動いて材料が変形できるとの仮説がたてられました。(図2参照)1950年代の電子顕微鏡の発達で実際に格子欠陥が観察でき,この仮説は実証できました。図1の写真は純アルミニウムの焼き鈍した後(a),2%圧延後(b),7%圧延後(c),30%圧延後(d)の電子顕微鏡写真です。加工によって導入されたのが線状のひものように見えるのが転位です。加工度が増えるにつれて転位が増加して転位同士がもつれ合ったようになります。

図2 転位の移動 (W.D. Callister, Jr and D.G. Rethwisch: Materials Science and Engineering, An Introduction, 9th Edition, Wiley, (2014), 218)
図2 転位の移動 (W.D. Callister, Jr and D.G. Rethwisch: Materials Science and Engineering, An Introduction, 9th Edition, Wiley, (2014), 218)
図3 転位が結晶内部を滑って結晶表面に段差が形成された痕跡
図3 転位が結晶内部を滑って結晶表面に段差が形成された痕跡

図2は,転位が形成された時の結晶内部の原子の配列を示します。(a)から上段と下段では紙面に垂直な縦の面の数が異なり,上段が一つ多いことがわかります。一つ余分な面の端が下の面とつながっていないところが奥まで続いて一本の線にみえます。これが転位(dislocation)と呼ばれ電子顕微鏡では線状に観察されます。この余分な面は小さな応力で隣に移動します(b)。この余分な面が表面に来ると段差として観察されます(c)。転位が滑った後の表面を観察したのが図3です。結晶全体をこの転位なしに変形させようとすると大きな応力が必要ですが,余分な面を少しずつ移動させることで小さな応力で変形させることができます。

 

セラミックスなども結晶構造を持ちますが,電子構造が金属とは異なり,電子雲が方向性を持ち局在化しています。ところがアルミニウムなどの金属の電子雲は等方的で非局在化しているので,少々原子が移動しても電子軌道が重なっているため電子に途切れがないので破壊することなく変形することができます。これは電子軌道に対して電子が不足していて自由に電子が移動しやすいためでもあります。セラミックスは電子の座席がすべて指定されているため電子が移動できませんが,金属は座席がたくさんあって電子が座席に比べて少ないために電子が自由に移動できます。

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コメント: 1
  • #1

    chobo (土曜日, 30 9月 2017 21:33)

    こんにちは。
    転位についての、写真と図解でとてもわかりやすいです。
    なるほど、セラミックスでは曲げ加工などできずに割れてしまいますが、
    それは電子構造の違いが大きく関係しているのですね。
    ご丁寧な説明をありがとうございました。