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アルミニウム合金国際会議ICAA16に参加して

会場となったMcGill大学
会場となったMcGill大学

二年おきに北米,欧州,アジアと順に開催されるアルミニウム合金国際会議ICAA (International Conference on Aluminum Alloys) は1986年第一回会議が米国Virginia大学で開催されて以来,今回で16回目になります。現在アルミニウム合金に関する国際会議としてはこれが唯一です。今回のICAA16は,6月17-21日,カナダのモントリオールのMcGill大学で開催されました。McGill大学は,フランス語圏にありながら英国人実業家の遺産をもとに創立された大学だそうです。市内にありどこまでが大学の敷地内かわからないくらいです。

 

今回の参加者は主催者発表によると,320件の口頭およびポスター発表,24カ国からの400名の参加者があり,その内訳は,日本からは19%だそうでカナダの20%についで多いとのことでした。第三位が中国でしたが,ただ欧米関係の発表者には中国系の名前も非常に多く見受けられ,これは中国国外で活躍している中国人研究者が多いことを意味していると思われます。

 

今回の講演発表の大きな特徴は,従来論文提出がほぼ必須だったのに対し論文提出なしでも講演発表が可能になったことです。これはこの国際会議で論文を発表すると,二重投稿の関係で他の主要なジャーナルに論文投稿できなくなるためと考えられます。日本の軽金属学会もほぼこれに似ています。日本の軽金属学会は図表込みで2ページの概要を書いて大会で口頭発表かポスター発表しますが,今回のICAA16の場合簡単なアブストラクトを出すだけで図表もなしで詳細は把握できません。今回の発表は7つものパラレルセッションがあり,聞きたい講演が重なっていたり,講演を聞いても聞き漏らしたりすると講演内容を後でチェックもできなくなり,せっかく参加しても詳細がわからないことが多く,今後の国際会議のあり方が問われることになると思われます。

 

講演内容に関しては,現在のアルミニウムの利用を反映して自動車関連がらみで6000系合金に関する発表が多いと思いました。またこのICAAを牽引してきたHydroのHirsch博士の業績を記念してJuerugen Hirsch Honorary Symposium が開催されました。しかしこのシンポジウムもほとんど概要だけで論文がないため,聴講限りしない講演内容は分からない状況でした。次回は2020年6 月14-18日フランス,グルノーブル工科大学で開催される予定です。

 

私もUACJで行った最後の研究の一つで,国外で発表する価値があると思い,UACJの支援を受けて口頭での講演発表を行いました。発表内容は「Al-Zn-Mg合金の時効硬化に及ぼす焼入れ速度の影響」で,入社以来の研究テーマでした。

入社当時の上司であった馬場義雄博士が微量元素を添加したAl-Zn-Mg合金の焼入れ性を研究していて,この研究で興味深いことは何も微量添加しないAl-Zn-Mg合金の焼入れ性が最もよく,溶体化処理後の冷却速度が炉冷材のように極めてゆっくり冷却しても,水冷材の96%の強度が得られることでした。

入社当時,焼入れとは水冷するものであると大学で教えられてきて,炉冷しても強度がでるとはどういうことだと戸惑いました。散々,焼入れの過剰凍結空孔が時効速度を速めるのだと聞かされてきましたが,時効速度もあまり変わりません。こうなるとそもそも時効硬化に過剰凍結空孔なるものが必要なのかどうかもわかりません。馬場博士とはこの当時,Al-Zn-Mg合金は状態図的に固溶範囲が広いために生じるのであろうということで話が終わった記憶があります。

 

その後,Al-Zn-Mg合金の時効速度の研究を少しして,航空機用アルミニウム合金の破壊靭性や超塑性の研究の方にシフトしていきました。しかしながらこの焼入れ性の問題はずっと頭の片隅にありいつも気になっていました。Al-Zn-Mg合金の時効速度の研究は以前から研究していた内容を2012年横浜で開催されたICAA12で発表しました。焼入れ性の研究はさらなる実験が必要で,一緒にやってくれる研究者を探していて八太秀周博士と渡辺威郎君が実験を手伝ってくれて今回の発表となりました。その詳細については別途述べたいと思います。