アルミニウム板を室温で圧延か繰り返し曲げを行うと硬くなる。これを加工硬化と呼んでいる。なぜ硬くなるかは転位で説明されることが多い。左図a)は99.99%アルミニウム板を焼鈍して軟らかくした状態,b)は2%, C)は7%, d)は30%冷間圧延したあとの組織を電子顕微鏡で観察した結果である。細く糸状に見えるのが転位である。加工度が増すにつれて糸状のものが増えて局所的に密集した状態になって境界を作る。これを転位セルと呼んでいる。もっと境界が明瞭になると亜結晶粒界となる。
加工してなぜ転位が残るかはアルミニウム中の不純物と関係している。アルミニウム中には不純物として鉄やケイ素が含まれている。99.99%アルミニウムで100ppm以下の不純物を含む。この微量の不純物と転位が反応して室温でも安定に残ることになる。転位のような格子欠陥は熱的に不安定で消滅しようとするが鉄がそれを妨げているのである。99.999%アルミニウムになると加工しても室温で転位が消滅していく。
転位論の理論にはこの不純物を考慮していないことが多い。転位論では不純物との固着ということで議論を済ませているが理論的には何のことか不明確である。
さて転位論では動けなくなった転位状組織を変形させようとすると簡単には変形できずさらに変形させるには強度が必要だということで強度が増加するというように加工硬化を説明している。問題はこうした議論の中に不純物の種類とその量の問題が強度の説明の中に入ってこないことである。
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